全くの他人である。それで、その嫁さんの遠い親類に当るという楯井さんが、この中では一番家の事情に通じている所から、人々は楯井さんの来たのを喜んだ。楯井さんは黙って、前の方に進み出ると、うす暗いランプの光りで、なんとなく夢のような荘厳な心持になりながら、いろんな巾《きれ》で蔽うてある死体らしいものゝ巾《きれ》を半分ほど除《の》けて見た。
 それは子守女の死体であった。もはやすっかり黒い血がにじんで仕舞って、顔も頭もはっきりしてない。髪の毛が血に交って、こびりついたようにかたそうに光っている。灯りが暗いので全体に物凄い影がさして、紫色の耳から頸へかけての肉の色が、一番目立ってはっきりと見えた。
 楯井さんは、この惨《いた》ましい死体を見ると、顔をどこかへかくそうとするような様子をして、しばらく眼をとじた、けれども彼はどうしてもあの若い嫁さんの死体を見なければならないような気がしたので、楯井さんは殆ど無意識に、これが嫁さんの死体だと思うと、巾《きれ》をまくって見た。
 あんの定、それは嫁さんの死体であった。右の肩から頭へかけて、余程残忍にやられて、肉が飛び散って仕舞ったのであろうか、着物の上か
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