は、みな若い女、子供、老人である。人から恨みをうけるようなものは一人もない。
 しかし楯井さんは、誰れにも誰れがこんな目にあわしたのだと聞くことが出来なかった。只、一時もはやく警察の人が来てくれゝばいゝと思っていた。時がだん/″\と、このごた/″\した光景のまゝで経《た》って行くばかりで、誰れにどうしてよいやらわからない。彼はみんなが黙り込んでしまうと、仕方がないように頭をたれたまゝじっとして動かなかった。丁度、何物にか威圧されたような静けさが、家のなかにみなぎった。
 楯井さんは、ふと頸を上げると、この家の嫁さんが、自分だち家族が長い間厄介になってた時に、非常に亭主には気兼しながらもなお自分だち家族に、親切にして気をつけてくれたことを、はっきりと思出して、あの小柄なよく働いていた細おもての顔が目に見えて来ると、胸がこみ上げて来て涙をおさえることが出来なかった。楯井さんは、この殺された赤ん坊の生れた時も知っている。赤ん坊はまだ二百日たらずにしかならない。そして親も子も死んだのではなくて、殺されたのだ。楯井さんは、いろ/\の事を考えながら、蝋燭の灯が消えかゝって、パチ/\音がするのを、じ
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