楯井さんのおかみさんは、楯井さんの側へ近よった。
三人とも少しも動かなかった。そして小屋の入口を見た。入口には実際殺された嫁さんの姿が、煙のようにしかし正しく立った、小屋の入口の代用として上からぶら下げてあるむしろ[#「むしろ」に傍点]を手で横にあけながら、青白くすきとおるような嫁さんの顔が、はっきりと皆の顔にうつった。幻影ではない。妄想ではない。慥かにあの嫁さんの姿である。
三人は驚くよりも、むしろ悲しかった。約一分間の後その姿は戸口に見えなかった。楯井さんは、急に黙って立上った。そして小屋の片隅に仏壇がわりに自分で吊った棚へ火をともした。棚は煙ですゝけて、やはりすゝけ切った位牌らしいものがのっていた。
楯井さんは、そこに火をともしたが、別に両手を合せもしないで、静かに戸口の方に行ったが、その右手には何か棒切のようなものを持っていた。
楯井さんは、入口のむしろ[#「むしろ」に傍点]を開いて外をのぞいた。しかし彼の眼には彼の心が感じたようなものはうつらなかった。楯井さんは二三歩ずつ進んだ。そしてあたりを見まわしながらまた二三歩歩いた。楯井さんは自分の手に棒切を握っているのに気付
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