、非常にいゝ天気であった。楯井さんは、やはり汗をながして開墾にいそがしかった。其夜は何事もなかった。
 それから三日目の夕方であった。全く世の中に到底この様な事があろうとは思われない程、気味の悪い物凄い事が、この小屋を襲った。それは楯井さんの神経の働きでも妄想でもなかった。それは楯井さんにも、楯井さんのおかみさんにも、長男の十二才になる慎造にも、明らかに其の事がわかったのであったから。
 夕方、一家のものが、一日の劇しい労働につかれて日が暮れると小屋に戻って来た。そして、揃って夕食を終えて、二人の小さい子供は、まだ膳の片付もすまないうちに、もうごろ/\と炉ばたのむしろ[#「むしろ」に傍点]の上にうたゝね[#「うたゝね」に傍点]を初めていた。
 楯井さんは黙って炉の火をいじったり、薪をくべたりなどしていたその瞬間、全く皆《みん》なの心が申し合せたように、しんみり[#「しんみり」に傍点]していた。なんとなくぬけ出すことの出来ないような沈黙のなかにいた。そして親子三人は、何かの不思議な物音、物音というよりもかすかな遠い幽鬱な響を耳にした。三人の心に冷い総毛立つような気味悪さが流れ込んで来た。
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