てくれた嫁さんの事を、一番思出してたまらなくなつかしく悲しかったのだ。三人の子供を抱えて他《よそ》の家に厄介になった気苦労も、あのやさしい美しい嫁さんの為めに、忘れて仕舞ってた位であった。おかみさんは、いろ/\思出すごとに、断片的に楯井さんに聞くのであった。
『おなかさんは、あんないゝ人だに。山崎の亭主は、まるっきり家にいないからあんな事になったんだ。』
と、おかみさんは山崎の亭主のことを、恨めしく思ったりした。楯井さんは、おかみ[#「おかみ」に傍点]さんがどんな事を云っても、外《ほか》のことを考えていた。そしてなんという事もなくお寺さんの話を、いつも思出しているのであった。楯井さんは急に、
『お寺さんの話では、おなか[#「おなか」に傍点]さんが殺された晩、ひどい音がして朝見ると、御堂の前に血がうん[#「うん」に傍点]と散らばっていたと云った。きっとおなか[#「おなか」に傍点]さんの知らせだろう。』
と、非常に陰気な様子をして云った。けれどもおかみさんは、そんな話を少しも気にかけない。
『あのお寺さんの話しだもの。あてんならない、そんな事が今時世の中にあってたまるもんか。あんないゝ
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