ていた。亭主は帰って来ても、別に悲しんだ様子もなかったが、当座一週間ばかりは、毎日々々墓参りをしていた。

      三

 楯井さんは、六日目で再び自分の開墾地の堀立小屋に帰った。楯井さんは、あのお寺さんの話しを道々気にしながら、不思議な事もあるものだと考えていた。
 楯井さんは、開墾地に帰って来ても、別にあの惨虐な物語りを口にしなかった。けれども楯井さんは心の中で様々なことを考えていた。しかし、気の早いせっかちな楯井さんのおかみ[#「おかみ」に傍点]さんは、やはり女だけにその話しを待ちかまえていたように楯井さんを迎えたのであった。そして、無理矢理夫からその話しを少しでも聞きとっては、思出したように涙を流した。楯井さんは、重々しい調子で妻の問に対して答えるとすぐ口を閉じて、自分の考えたことや思出したことなどは少しも云わなかった。
『一番可哀想なのは、おなか[#「おなか」に傍点]さん(嫁さんの名)と赤《あか》(赤ん坊)だ。あんないゝ嫁さんもないもんだ。』
 と、おかみ[#「おかみ」に傍点]さんは、自分が四ヶ月も世話になって、いやな顔どころか、何から何につけて気がきいて親切にめんどう見
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