寄進をした。
 お昼すぎの二時頃延徳寺のお寺さんは来た。噂ではこのお寺さんは、学問があるけれども、非常に、やまし[#「やまし」に傍点]気のある人だという事であった。お寺さんは三十七八の頭の長い人で、顔中、細かい皺がよっていながら、つやつやしたいゝ色の膚の人であった。
 お寺さんのお経が終わってその夕方葬式をすませた。村のせまい墓所に四つの新らしい墓標が加った。
 延徳寺までは六里もあるので、其夜お寺さんは、此の家に泊った。新開地のことなのでいろ/\の人が集まって、お寺さんを囲んでさま/″\仏様の話し等をした。お寺さんは、こんなことを云った。
 丁度、一昨夜の十二時頃、大変ひどい音がして寝られなかったので、朝早く御堂に行って見ると、御堂の前の畳が二畳敷ほどの大きさ一ぱいに、生々しい血がひろがっていたと云った。聞いてた人々は、
『嫁さんがお寺まいりを、したい/\と云って一度もお詣りが出来なかったので、きっと嫁さんのたまし[#「たまし」に傍点](魂)が知らせに行ったのだ。』
 と云って、しみ/″\した顔付をした。
 楯井さんは、嫁さんの亭主が帰って来るまで、丁度五日の間この淋しい家に留守をし
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