建つの、あすこへ建つのという噂で、気の早い連中はもう自分だちの勝手ぎめで、どしどし家を建て出した。家と云った所で、大抵柾造りのひくい家で、雪の多い北海道の山奥には、どうかすると心細いほど粗末なものである。
ぼつ/\と人が入り込んでから、まだ三四年とたゝないこの山奥の未開地に、警察等の手は届かなかった。郵便局も役場も学校なども、かれこれ七八里の山道を行かねばならないのであった。それに道もようやく、山道を切り開いた所や熊笹を刈ったあとの、とげ/\した荒れた道である。
楯井さんは、此の知らせを受けて、妻と三人の子供を残して兎に角すぐに出かけた。彼は、非常に驚いたけれども、なんとなく信ずることが出来なかった。そんなはずが、けっしてないような気がしてならなかった。彼は、そんな事が、決して世の中にありうることではないと思っていたのではなくて、唯この山奥の新開地に、そんな事をする人がいようとは、どうしても思われなかったのである。
楯井さんは、自分の住んでいるこの山奥を、何という安らかな、そしてなつかしい所だろうと、いつも考えているのであった。
彼が考えている浮世というもの、罪悪などゝいうもの
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