して、何といふ云ひわけをしたらいゝだらうと涙にくれた。
 けれども多緒子は、自分の肉體に對して我子に云ひわけする何物もなかつた。彼女は自分が不具にならなければならなかつたことについては、何にも知らない、只病氣の爲めにといふ、その一言より知らないのである。けれども我子は必ず、『なぜ病氣になつたの。』と聞くに違ひない、けれども彼女自身もなぜ病氣になつたのか知らないのだ。
『身體が弱かつたから。』
『なぜ、身體が弱かつたの。』子供はまた聞くに違ひない。けれども彼女はなぜ自分が弱かつたかといふことについては、何と答へていゝか知らない。それよりも子供は何《なん》と思ふであらう。母親の不具であることが、女の子のせまい胸のなかに、頼りない恥しさ肩身のせまい思ひをさせることだらう。そしてもしや/\母親を恨むことがなからうか。我身のかなしさのあまり、母親を憎むことがありはしないだらうか。
 若い母親の多緒子は、そんなことを思ひつゞけて涙にくれた。彼女はまた無心の赤子《あかご》に對して自分が堪へがたい愛情を覺えれば覺えるほど、彼女は堪へがたい悲しみに心をうばはれた。そして彼女はその悲しみのうちに、子供に云
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