子の肉體《からだ》を流れたかと思ふと、彼女はとりかへしのつかないことをしたやうな氣がしてならなかつた。
またすべて、只の一夜で幸子のものが部屋のなかに擴げられ、部屋のなかに我子のすべてが行き渡つてるやうな氣がした。
それから巍《たかし》は日中、ほとんど一人の手で幸子《さちこ》の守《もり》をした。そして漸くのことで牛乳をのませた。けれども夕方になると、砂山の上の小さな丸い草の葉を凉しい風が靜かにふき初めると、幸子は一日の務め、苦しい務め、忍耐にたへかねたといふやうに、そして逃れるやうに泣いて母親を求めた。誰の手にも誰れの懷《ふところ》にも行かなかつた。そして母親の懷《ふところ》に抱かれないならば、一|夜《や》でも泣きあかさうとした。そして、決して眠るまいと決心してゐるやうであつた。けれどもどんなに泣き叫んでる時でも多緒子の胸に抱かれゝばすぐ安らかに寢た、しかし一夜の間幸子は夢にも母親の胸をはなれまいとしてすがりついた。幸子は、すべてをさとつてるやうに、只夜だけの我に安息を與へて呉れと願ふやうに、朝になれば誰の手にもよろこんで、小さな可愛い手を出した。
夏がすぎて爽やかな秋になろうと
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