とを感じた。そして自分の生きてるといふことが愛する夫や子供の幸福の幾分にでもなつてゐるのだと云ふことを考へると、一日でも一時間でもながく彼等の爲めに生きなければならないと考へた、彼女は死を怖れた。病を悲しんだ。もしもこの病が旅に出てゐる夫を再び見ることをさせず、慕う子供を殘して自分を死に導いたならば――と思ふのであつた。
夫の巍《たかし》が一週間ほどして歸つて來た時、多緒子は甦へつたやうに喜んだ。彼も多緒子の別に變化のないらしい顏を見ると、すべてのなやみから逃れたやうな、はつとした顏をした。そして、丁度すや/\と寢てゐた幸子《さちこ》の顏をむさぼるやうに眺めて、
『どうした、別に幸子もなんでもなかつたか。』
と巍は嬉しさうになつかしさうに笑ひながら、眼に涙を浮べた。彼は急に立つてそして着物をぬぎながら、
『どうした。どうしてゐた。變つたこともなかつたか、苦しいやうなこともなかつたか。』
と、部屋のなかを歩きながら繰りかへした。
多緒子は、そつと床の上に起き上つた。幸子は、やがて目覺めた。
『どうした、待つてたか。』
巍は、あわてゝ幸子の顏に顏を押しあてゝ抱き上げた、幸子は彼の
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