子供の細い泣き聲がいつまでも/\きこえてゐた。
幸子《さちこ》は、しばらくたつて泣きやんで歸つて來るが、靜かに起き上つてゐる多緒子の顏を見ると、急に堪へがたいやうに泣き立てた。そして多緒子の細い腕に抱かれると、すゝり上げて嬉しさうに泣きやんだ。けれども彼女はすぐにまた横にならなければならなかつた、幸子は晝も夕べも、女の脊中に負はれて、
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たんぽさん、たんぽさん、お前のお國はどこじやいな。房州の房州の外房州。――
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といふ唄の聲につれて、泣きながら海の方や松林のなかに、つれられて行くのであつた。
多緒子は娘であつた頃病といふものを少しも怖れてゐなかつた。彼女は靜かな部屋のなかの藥とそして花の香の中で、力ない腕を見つめながら白い床の上にねてゐることは、本當に美しいことであると思つてゐた。そして殊に若く美しい花が人に手折《たを》られたやうに死んで行くことは、限りない幸福なことだと考へてゐたのであつた。そして生れつき弱い彼女は、これまで度々病氣をした。けれどもその病氣に對しての恐怖、その恐怖に對する悲しみなどを、眞に感じたことがなかつたのだ。
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