は、この光りにみちた地上を歩くことが出來なかつた。
 そして、それがすべて若くして病める弱い人々のやうに、あらゆるうれしさや、よろこびの、さゝいのなかにも、淋しい恐ろしい孤獨と悲哀とを感ずるチヤンスを、見出すことを忘れさせなかつた。『私の弱さが、私の歡樂をうばひはしないか。』と。
『えゝ、』彼女は、高い階段《きざはし》の先を見上げた。その高い階段《きざはし》は、また先の方に暗くなつて、登つただけ、再び降《お》りなければならなかつた。
 彼女は、睫毛《まつげ》をふせた。その階段《きざはし》が、彼女を威壓するやうに見えたから、彼女の弱い足元がふるへて、不安とかなしみが混亂してこみ上げて來るのを感じた。けれども、それが彼女一人の時においてゞなく、戀人の呼吸と、その衣《きぬ》ざはりのかすかな響とを、傍に聞くことが出來たから、不安は、羞恥と淡《あは》い恐れとになつて、彼女は、上氣《じやうき》したやうに、頬を赤くそめてうつむいた。
 彼女は、そしてその伏せた瞳のなかに、女が白い細やかな、紅の裾に卷かれた兩足を持つて、蛇のやうにすばやく駈け登つて行くのを見た。
 彼は、靜かに、そして斜に階段を上り初
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