》が開けられると、ふっと冷たい空気が流れ込んで来た。そして外から帰って来た男が、つめたそうな顔をして不安にうるんでる瞳を見はりながら入って来た。
『どうした、大丈夫か。』
 そして彼は彼の冷え切った大きな手で、彼女のやはらかな疲れ切って投げ出され、忘られたやうな小さな手をかたく握りしめた。
『大丈夫か、しっかりしてくれ。』
 男は静かに、彼女の生へ際のみだれた毛をなで上げてやった。
 彼女はぢっと彼の顔を見て居たが、急に力強いはっきりした意識が目覚めて来た。そうだ。彼女はなにか云はなければならない。
『赤ちゃんが生れましたの。』
『うむ。』男はあはれそうに彼女を慰めようとして、笑ひを浮べながら、
『うむ、赤ちゃんを見て来たよ。赤ちゃんは大丈夫だ。さ、もう少しだ、しっかりしてゝくれ。』
 お葉は静かにうなづいた。そして、もう一度なにかを云はふと、男が瞳に眼を上げた時お腹と、腰との間へんが、しめるやうに痛み出した。
『おゝ。』彼女は顔をゆがめた。男は、
『がまんしてくれ。』と力をそへるやうに彼女の腕首をつよくおさへた。
『痛み出しましたか。今度はすぐ下りるでせう。』産婆は、あはたゞしく彼女
前へ 次へ
全17ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
素木 しづ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング