方へ
わざとしばらくは徒歩でゆきながら
旧友を憐むことで久しぶりに元気になるのを感じた
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 田舎道にて


日光はいやに透明に
おれの行く田舎道のうへにふる
そして 自然がぐるりに
おれにてんで見覚えの無いのはなぜだらう

死んだ女《ひと》はあつちで
ずつとおれより賑やかなのだ
でないと おれの胸がこんなに
真鍮の籠のやうなのはなぜだらう

其《そ》れで遊んだことのない
おれの玩具《おもちや》の単調な音がする
そして おれの冒険ののち
名前ない体験のなり止《や》まぬのはなぜだらう
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 真昼の休息


木柵の蔭に眠れる
牧人は深き休息《やすらひ》……
太陽の追ふにまかせて
群畜《けもの》らかの速き泉に就きぬ
われもまたかくて坐れり
二番花乏しく咲ける窓辺に

土《ち》の呼吸《いき》に徐々に後れつ
牧人はねむり覚まし
己《わ》が太陽とけものに出会ふ
約束の道へ去りぬ……
二番花乏しく咲ける窓辺に
われはなほかくて坐れり
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 帰郷者


自然は限りなく美しく永久に住民は
貧窮してゐた
幾度もいくども烈しくくり返し
岩礁にぶちつかつた後《のち》に
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