うけとつたのは
私のまはし者どもが新世界でやつてゐる
キィノーでであつた

私は養家に入籍《い》る前の名刺を 事務机から
さがし出すと それに送宴の手筈を書き
他の二人に通知した

私ら四人が集ることになつたホテルに
其の日私は一ばん先に行つた
テラスは扇風機は止つてゐたが涼しかつた

噴水の所に 外から忍びこんだ子供らが
ゴム製の魚を
私の腹案の水面に浮べた

「体《てい》のいゝ左遷さ」と 吐き出すやうに
旧友が言ひ出したのを まるきり耳に入らないふりで
異常に私はせき込んで彼と朝鮮の話を始めた

私は 私も交へて四人が
だん/\愉快になつてゆくのを見た
(新世界で キィノーを一つも信じずに入場《はい》つて

きた人達でさへ 私の命じておいた暗さに
どんなにいらいらと 慣れようとして
目をこすることだらう!)

高等学校の時のやうに歌つたり笑つたりした
そして しまひにはボーイの面前で
高々とプロジツト! をやつた

独りホテルに残つた旧友は 彼の方が
友情のきつかけにいつもなくてはならぬ
あの朝鮮[#「朝鮮」に傍点]の役目をしたことを 激しく後悔した

二人の同窓は めい/\の家の
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