》あき
見知られぬ入海にわれ浮くとさとりぬ
あゝ 幾歳を経たりけむ 水門《みなと》の彼方
高まり 沈む波の揺籃
懼れと倨傲とぞ永く
その歌もてわれを眠らしめし
われは見ず
この御空の青に堪へたる鳥を
魚族追ふ雲母岩《きらら》の光……
め覚めたるわれを遶りて
躊躇《ためら》はぬ櫂音ひびく
あゝ われ等さまたげられず 遠つ人!
島びとが群れ漕ぐ舟ぞ
――いま 入海の奥の岩間は
孤独者の潔《きよ》き水浴《ゆあみ》に真清水を噴く――
と告げたる
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寧ろ彼らが私のけふの日を歌ふ
耀かしかつた短い日のことを
ひとびとは歌ふ
ひとびとの思ひ出の中《なか》で
それらの日は狡《ずる》く
いい時と場所とをえらんだのだ
ただ一つの沼が世界ぢゆうにひろごり
ひとの目を囚《とら》へるいづれもの沼は
それでちつぽけですんだのだ
私はうたはない
短かかつた耀かしい日のことを
寧ろ彼らが私のけふの日を歌ふ
[#改ページ]
鶯(一老人の詩)
(私の魂)といふことは言へない
その証拠を私は君に語らう
――幼かつた遠い昔 私の友が
或る深い山の縁《へり》に住んでゐた
私は稀にその家を訪うた
す
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