魔王死に絶えし森の辺《へ》
遥かなる合歓花《がふくわんくわ》を咲かす庭に
群るる童子らはうち囃して
わがひとのかなしき声をまねぶ……
(行つて お前のその憂愁の深さのほどに
明るくかし処《こ》を彩れ)と
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 河辺の歌


私は河辺に横はる
(ふたたび私は帰つて来た)
曾ていくどもしたこのポーズを
肩にさやる雑草よ
昔馴染の 意味深長な
と嗤ふなら
多分お前はま違つてゐる
永い不在の歳月の後に
私は再び帰つて来た
ちよつとも傷けられも
また豊富にもされないで

悔恨にずつと遠く
ザハザハと河は流れる
私に残つた時間の本性!
孤独の正確さ
その精密な計算で
熾《さかん》な陽の中に
はやも自身をほろぼし始める
野朝顔の一輪を
私はみつける

かうして此処にね転ぶと
雲の去来の何とをかしい程だ
私の空をとり囲み
それぞれに天体の名前を有つて
山々の相も変らぬ戯れよ
噴泉の怠惰のやうな
翼を疾つくに私も見捨てはした
けれど少年時の
飛行の夢に
私は決して見捨てられは
しなかつたのだ
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 漂泊


底深き海藻のなほ 日光に震ひ
その葉とくるごとく
おのづと目《まなこ
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