身をしたと

[#ここから3字下げ、折り返して5字下げ]
註 有明海沿の少年らは、小さい板にのり、八月の限りない干潟を蹴つて遠く滑る。しやつぱ[#「しやつぱ」に傍点]は、泥海の底に孔をうがち棲む透明な一種の蝦。
[#ここで字下げ終わり]
[#改ページ]

 (読人不知)


深い山林に退いて
多くの旧い秋らに交つてゐる
今年の秋を
見分けるのに骨が折れる
[#改ページ]

 かの微笑のひとを呼ばむ


………………………………………
………………………………………
われ 烈しき森に切に憔《つか》れて
日の了る明るき断崖のうへに出でぬ
静寂はそのよき時を念じ
海原に絶ゆるなき波濤の花を咲かせたり
あゝ 黙想の後の歌はあらじ
われこの魍魅の白き穂波蹈み
夕月におほ海の面《おもて》渉ると
かの味気なき微笑のひとを呼ばむ
[#改ページ]

 病院の患者の歌


あの大へん見はらしのきいた 山腹にある
友人の離室《はなれ》などで
自分の肺病を癒さうとしたのは私の不明だつた

友人といふものは あれは 私の生きてゐる亡父だ
あそこには計画だけがあつて
訓練が欠けてゐた

今度の 私のは入つた町なか
前へ 次へ
全17ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊東 静雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング