様にあちこちと歩んでいる。
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アントオニオ (小声で。)恐ろしいものだな。臨終。言いようもない……。神に近いもの、先生……吃《ども》り吃り……何か訴えるように……。
チチアネルロ (戻って来ながら。)今はまた少し落ち着いて来られた。蒼《あお》いお顔から、後光がさしている。いやお画きになる、お画きになる。目付も穏かだ。むすめたちと何時《いつ》ものように話しておいでになる。
アントオニオ じゃ、僕たち、暫《しばら》く石段の上で横になっていよう。また容体がお変りになるまで、そうしていよう。
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人々|磴《いしだん》の上に蹲《うずくま》る。チチアネルロはジヤニイノの髪を弄《もてあそ》ぶ。その目半ば閉ず。
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バチスタ (半ばは自分に言うが如く。)段々悪く……それからいよいよいけなく……いやいや。そんな事はない。段々悪くなると云う容体。そんな容体がまるで終ってしまった後でなければ、いよいよいけないって時にはならない。ああ、この先の、生のない、声のない、落莫《らくばく》たる世間……いや、今日はまだそんな事は考えられない……だが明日《あす》は、明日はそうなるだろう。
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間。
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ジヤニイノ 僕はもうすっかり労《つか》れた。
パリス 蒸し暑い風のせいだ。南風のせいだ。
チチアネルロ (笑いながら。)こいつ、昨夜《ゆうべ》一晩中起きていやがった。
ジヤニイノ (腕にもたれて。)うむ。そりゃ全く初めてのことだ、僕が一晩中起きていたなどは。だが君、どうして知っている。
チチアネルロ そりゃ分る。初《はじめ》のうちは、僕のそばで、まだ君の静かな息がして居った。そのうち君は立ち上った。そして石段へ腰をかけたじゃないか……。
ジヤニイノ そうだ。蒼い――呼吸《いき》をしている夜《よる》、何か謎のような叫喚が絶えず聞えるような気がしたんだ。「自然」のうちに眠《ねむり》なんていうものは、どこを捜したってなかったんだ。深い息づかい、濡《ぬ》れた脣《くちびる》、「自然」はまっ暗闇の中に這《は》いつくばって、一心に、秘密の物のけはいを偵察していたのだ。ぽたぽた
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