れようとしたのである。
伯父から享けたものとしては、まず、その非論理的な傾向、気まぐれ、現実に疎い理想主義的な気質などが挙げられると、三造は考えた。穿《うが》ったような見方をするようでいて、実は大変に甘いお人好《ひとよ》しである点なども、その一つであろう。三造も時に他人《ひと》から記憶が良いと言われることがあるが、これも伯父から享けたものかも知れない。肉体的にいえば、伯父のはっきりした男性的な風貌に似なかったことは残念だったが、顱頂《ろちょう》の極めてまん[#「まん」に傍点]円《まる》な所(誰だって大体は円いに違いないが、案外でこぼこ[#「でこぼこ」に傍点]があったり、上が平らだったり、後《うしろ》が絶壁だったりするものだ。)だけは、確かに似ている。しかし、伯父との間に最も共通した気質は何だろう。あるいは、二人ともに、小動物、殊に猫を愛好する所がそれかも知れぬ、と、三造は気が付いた。一つの情景が今三造の眼の前に浮んで来る。何でも夏の夕方で、彼はまだ小学校の三年生位である。次第に暮れて行く庭の隅で、彼が小さなシャベルで土を掘っている側に、伯父が小刀で白木を削っている。二人が共に非常に可
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