生れた東京で死にたかったのであろう。三造が電話でしらせ[#「しらせ」に傍点]を受取ってすぐに高樹町の赤十字病院に行った時、伯父はひどく彼を待兼ねていた様子であった。一生|竟《つい》に家庭を持たなかった伯父は、数ある姪や甥たちの中でも特に三造を愛していたように見えた。殊に、彼の学校の成績の比較的良い点に信頼していたようであった。三造がまだ中学の二年生だった時分、同じく二年生だった彼の従兄の圭吉と二人で、伯父の前で、将来自分たちの進む学校について話し合ったことがあった。その時、二人とも中学の四年から高等学校へ進む予定で、そのことを話していると、それを聞いていた伯父が横から、「三造は四年からはいれるだろうが、圭吉なんか、とても駄目さ」と言った。三造は、子供心にも、思い遣りのない伯父の軽率を、許しがたいものに思い、まるで自分が圭吉を辱しめでもしたかのような「すまなさ[#「すまなさ」に傍点]」と「恥ずかしさ」とを感じ、しばしは、顔を上げられない位であった。それから二年余りも経って、駄目だと言われた圭吉も、三造と共に四年から高等学校にはいった時、三造は、まだ、かつての伯父の無礼を執念深く覚えていて
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