洋に二三年も過ごした人だと、最早この様な事柄に何等不審を感じない。或いは、こういうのが島民に接する最上の老練さだと考えもしよう。
 私自身に就いて云うならば、斯ういう島民の扱い方に対して別に人道主義的な顰蹙《ひんしゅく》も感じないが、さりとて之を以て最上の遣り方と推奨することにも多分の躊躇を感ずる。断乎たる強制一点張が、へん[#「へん」に傍点]に彼等を甘やかすよりも効果的であるのは言う迄もない。いや、困ったことに、周到な用意を伴った誠心誠意よりも、尚且つ、単なる強制の方が良い結果をあげる場合が甚だ多いのである。勿論、それが果して彼等を心服せしめてのことか、どうか、それは疑わしいにしても、我々の常識にとって再び困ったことに、断乎たる強圧が彼等を単に表面ばかりでなく、本当に心底から驚嘆感服せしめる場合も確かに在り得るのだ。「怖い」と「偉い」とがまだ分化していない場合が多く、しかし何時《いつ》でもそうかと云うに、必ずしもそう一律には行かないように思われる。要するに、私にはまだ島民というものが呑みこめないのだ。そうして、この島民の心理や生活感情の不可解さは、私にとって、彼等に接することが多くな
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