一定不変のものではなく同じものが時に良く時に悪くなるのだ、とかいう説明は、私を殆ど満足させない。その不満は、実際にあの爺さんの声、風貌、動作の一つ一つを知りつくして、さて最後に、それ等からは、凡そ期待されない此の三羽の牝※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]にぶつかった私一人だけの感ずるものなのかも知れない。そうして恐らくは、「人間は」というのではなしに、「南海の人間は」という説明を私は求めているのでもあろう。それは兎も角として、南海の人間はまだまだ私などにはどれ程も分っていないのだという感を一入《ひとしお》深くしたことであった。



底本:「中島敦全集 2」ちくま文庫、筑摩書房
   1993(平成5)年3月24日第1刷発行
   2003(平成15)年3月20日第6刷発行
※ファイル冒頭の作品名、著者名等は、XHTMLファイルにおける外字画像化の対象外としています。そこで同ファイルでの視認性を考慮して、表題に用いられている「※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]には異体字の「鶏」をそえました。 
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振り
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