り込んだことを村人は知った。鼻の半分落ちかかった・村で二番目の物持は、丁度、最近妻に死なれたばかりだったということである。

 斯くてギラ・コシサンと其の妻のエビルとは二人とも、但しめいめい別々にではあるが、幸福な後半生を送ったと、今に至る迄村人達は語り伝えている。

       ×          ×          ×

 話は以上で終るのだが、此処《ここ》に出て来るモゴル即ち未婚女の男性への奉仕という習慣は、独逸《ドイツ》領時代に入ると共に禁絶されて了《しま》い、現在のパラオ諸島には其の跡を留めていない。しかし、村々の老婆に尋ねて見ると、彼女等はいずれも若い頃その経験をもったとのことである。嫁入前には誰しも必ず一度は他村へモゴルに行ったものだという。
 さて、今一つのヘルリス即ち恋喧嘩に至っては今尚到る所で盛んに行われている。人間の在る所恋あり、恋ある所嫉妬ありで、蓋《けだ》し之は当然であろう。現に筆者も彼の地に滞在中したしく之を目撃したことがある。事の次第も其の烈しさも本文中に述べた通りで(私の見たのも矢張言いがかりを付けて来た方が返り討ちに会ってワアワア手離しで泣きなが
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