南子は※[#「糸+希」、第3水準1−90−5]帷《ちい》(薄《うす》い葛布《くずぬの》の垂れぎぬ)の後に在って孔子を引見する。孔子の北面稽首《ほくめんけいしゅ》の礼に対し、南子が再拝して応《こた》えると、夫人の身に着けた環佩《かんぱい》が※[#「王へん+樛のつくり」、第3水準1−88−22]然《きゅうぜん》として鳴ったとある。
 孔子が公宮から帰って来ると、子路が露骨《ろこつ》に不愉快な顔をしていた。彼は、孔子が南子|風情《ふぜい》の要求などは黙殺《もくさつ》することを望んでいたのである。まさか孔子が妖婦《ようふ》にたぶらかされるとは思いはしない。しかし、絶対|清浄《せいじょう》であるはずの夫子が汚らわしい淫女に頭を下げたというだけで既に面白くない。美玉を愛蔵する者がその珠《たま》の表面《おもて》に不浄なるものの影《かげ》の映るのさえ避けたい類《たぐい》なのであろう。孔子はまた、子路の中で相当|敏腕《びんわん》な実際家と隣《とな》り合って住んでいる大きな子供[#「大きな子供」に傍点]が、いつまでたっても一向老成しそうもないのを見て、可笑《おか》しくもあり、困りもするのである。

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