、霊公の所から孔子へ使が来た。車で一緒《いっしょ》に都を一巡《いちじゅん》しながら色々話を承《うけたまわ》ろうと云う。孔子は欣んで服を改め直ちに出掛けた。
 この丈《たけ》の高いぶっきらぼう[#「ぶっきらぼう」に傍点]な爺《じい》さんを、霊公が無闇《むやみ》に賢者として尊敬するのが、南子には面白くない。自分を出し抜いて、二人同車して都を巡《めぐ》るなどとはもっての外である。
 孔子が公に謁し、さて表に出て共に車に乗ろうとすると、そこには既に盛装《せいそう》を凝《こ》らした南子夫人が乗込んでいた。孔子の席が無い。南子は意地の悪い微笑を含《ふく》んで霊公を見る。孔子もさすがに不愉快になり、冷やかに公の様子を窺《うかが》う。霊公は面目無げに目を俯《ふ》せ、しかし南子には何事も言えない。黙《だま》って孔子のために次の車を指《ゆび》さす。
 二乗の車が衛の都を行く。前なる四輪の豪奢《ごうしゃ》な馬車には、霊公と並《なら》んで嬋妍《せんけん》たる南子夫人の姿が牡丹《ぼたん》の花のように輝《かがや》く。後《うしろ》の見すぼらしい二輪の牛車には、寂《さび》しげな孔子の顔が端然《たんぜん》と正面を向いて
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