や、同僚達が坐っている。我々の右手、かなり離れて、マターファが坐っており、時々彼の脣《くちびる》が動き、手頸《てくび》の数珠玉の揺れるのが見える。
 一同はカヴァを飲んだ。王が一口飲んだ時、全く驚かされたことに、ポポ父子《おやこ》がとてつ[#「とてつ」に傍点]もなく奇妙な吠声《ほえごえ》を立てて、之を祝福した。こんな不思議な声は、まだ聞いたことがない。狼の吠声の様だが、「ツイアツア万歳」の意味だそうだ。やがて食事になった。マターファが喰終ると、又しても奇怪な吠声が響いた。此の非公認の王の面上に、一瞬、若々しい誇と野心の色が生動し、直ぐに又消去るのを、私は見た。ラウペパとの分離以来、始めて、ポポ父子がマターファの許に来てツイアツアの名を讃えたからであろう。
 既に食物搬入は済んだ。贈物は順々に注意深く数えられ、記帳された。ふざけた説話者が、品名や数量を一々変な節廻しで呼上げては、聴衆を笑わせている。「タロ芋六千箇」「焼豚三百十九頭」「大海亀三匹」……
 それから、未だ見たこともない不思議な情景が現れた。突然、ポポ父子が立上り、長い棒を手に、食物の堆《うずたか》く積まれた庭に飛出して、奇妙
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