った白檀《びゃくだん》を頭につけた者、紫の花弁を頭一杯に飾った者…………
 中央の空地には、食物の山が次第に大きさを増して行く。(白人に立てられた傀儡《かいらい》ではない)彼等の心から推服する真の王者へと贈られた・大小酋長からの献上品だ。役人や人夫が列をなして歌を唱《うた》いながら贈物を次々に運び入れる。其等は一々高く振上げて衆に示され、接収役が鄭重《ていちょう》な儀礼的誇張を以て、品名と贈呈者とを呼び上げる。この役人は頑丈な体格の男で、全身に良く油が塗り込んであるらしく、てらてら[#「てらてら」に傍点]光っている。豚の丸焼を頭上に振廻しながら、滝の様な汗を流して叫んでいる有様は、壮観である。我々の持参したビスケットの缶と共に、「アリイ・ツシタラ・オ・レ・アリイ・オ・マロ・テテレ」(物語作者酋長・大政府の酋長)と紹介される声を私は聞いた。
 我々の為に特に設けられた席の前に、一人の老いたる男が、緑の葉を頭に載せて坐っている。少し暗い・けん[#「けん」に傍点]のある其の横顔は、ダンテにそっくりだ。彼は、此の島特有の職業的説話者の一人、しかも其の最高権威で、名をポポという。彼の傍には、息子
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