帆に際し挨拶に来られぬ旨を言いよこした。
政府が街の白人達に不人気なのは面白い。徒《いたず》らに島民の感情を刺戟《しげき》して、白人の生命財産を危険に曝《さら》すからだ。白人は土人よりも税を納めない。
インフルエンザ猖獗《しょうけつ》。街のダンス場も閉じた。ヴァイレレ農場では七十人の人夫が一時に斃《たお》れたと。
十二月××日
一昨日の午前、ココアの種子千五百、続いて午後に七百、届く。一昨日の正午から昨日の夕刻迄うち[#「うち」に傍点]中総出で、この植付にかかりっきり。みんな泥まみれになり、ヴェランダは愛蘭土《アイルランド》泥炭沼の如し。ココアは始めココア樹の葉で編んだ籠《かご》に蒔《ま》く。十人の土人が裏の森の小舎で此の籠を編む。四人の少年が土を掘って箱に入れヴェランダヘ運ぶ。ロイドとベル(イソベル)と私とが、石や粘土塊をふるって土を籠に入れる。オースティン少年と下婢《かひ》のファアウマとが其の籠をファニイの所へ持って行く。ファニイが一つの籠に一つの種子を埋め、それをヴェランダに並べる。一同綿の如くに疲れて了った。今朝もまだ疲れが抜けないが、郵船日も近いので、急いで「サモア史
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