長官に之を話して賛成を得た。それで、碇泊《ていはく》中のアメリカ軍艦へ行ってダイナマイトを貰おうとしたが拒絶され、やっと、難破船引揚業者(前々年の大|颶風《ハリケーン》で湾内に沈没したままになっている軍艦二隻をアメリカがサモア政府に寄贈することになったので、其の引揚作業のため目下アピアに来ている。)から、それを手に入れたらしい。この事が一般に洩《も》れ、この二三週間、流言が頻《しき》りに飛んでいる。余り大騒ぎになりそうなので、怖くなった政府では、最近、突如囚人達をカッターに乗せてトケラウス島へ移して了った。大人しく服罪している者を爆破しようというのは勿論言語道断だが、勝手に禁錮を流罪に変更するのも随分目茶な話だ。斯うした卑劣と臆病と破廉恥とが野蛮に臨む文明[#「文明」に傍点]の典型的な姿態《すがた》である。白人は皆こんな事に賛成なのだ、と、土人等に思わせてはならない。
此の件に就いての質問書を、早速、長官宛に出したが、未だに返辞がない。
十月×日
長官よりの返書、漸《ようや》く来る。子供っぽい傲慢《ごうまん》と、狡猾《こうかつ》な言抜け。要領を得ず。直ちに、再質問書を送る。こんな
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