民の、商会に対する反感が次第に昂《たか》まった。美しく整理された商会の農場は、土人の眼に公園の如く映り、其処へ自由に入ることが許されぬのは、遊び好きな彼等にとって不当な侮辱と思われた。折角苦労して沢山のパイナップルを作り、それを自分達で喰べもせずに、船に載せて他処へ運んで了うに至っては、土人の大部分にとって、全く愚にもつかぬナンセンスである。
夜、農場へ忍び入って畑を荒すこと、之が流行になった。之は、ロビンフッド的な義侠《ぎきょう》行為と見做《みな》され、島民一般の喝采《かっさい》を博した。勿論、商会側も黙ってはいない。犯人を捕えると、直ぐに商会内の私設監獄にぶち込んだばかりでなく、此の事件を逆用し、独逸領事と結んでラウペパ王に迫り、賠償を取るのは勿論、更に脅迫によって勝手な税法(白人、殊に独人に有利な)に署名させるに至った。王を始め島民達は、此の圧迫に堪えられなくなった。彼等は英国に縋《すが》ろうとした。そして、全く莫迦莫迦《ばかばか》しいことに、王、副王以下各大酋長の決議で「サモア支配権を英国に委《ゆだ》ねたい」旨を申出そうとしたのだ。虎に代うるに狼を以てしようとする此の相談は、
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