んで狂少年の眼に貼付《はりつ》け、耳の中に其の汁を垂らし、(ハムレットの場面?)鼻孔《びこう》にも詰込んだ。二時頃、狂人は熟睡に陥った。それから朝迄発作が無かったらしい。今朝ラファエレに聞くと、「あの薬は使い方一つで、一家|鏖殺《おうさつ》位、訳なく出来る劇毒薬で、昨夜は少し利き過ぎなかったかと心配した。自分のほかに、もう一人、比の島で此の秘法を知っている者がある。それは女で、其の女は之を悪い目的の為に使ったことがある。」と。
入港中の軍艦の医者に今朝来て貰ったが、パータリセを診て、異常なしという。少年は、今日は仕事をするのだと言って聞かず、朝食の時、皆の所へ来て、昨夜の謝罪のつもりだろうか、家中の者に接吻した。この狂的接吻には、一同少からず辟易《へきえき》。しかし、土人達は皆パータリセの譫言《うわごと》を信じているのだ。パータリセの家の死んだ一族が多勢、森の中から寝室へ来て、少年を幽冥界《ゆうめいかい》へ呼んだのだと。又、最近死んだパータリセの兄が其の日の午後|叢林《そうりん》の中で少年に会い、彼の額を打ったに違いないと。又、我々は死者の霊と、昨夜一晩戦い続け、竟《つい》に死霊共は
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