の様な音が、二三回。そして、その音が強くなる度に、静かな山全体が揺れるように感じた。地震だ。
又、水路に沿って行く。今度は水が多い。恐ろしく冷たく澄んだ水。夾竹桃《きょうちくとう》、枸櫞樹《シトロン》、たこ[#「たこ」に傍点]の木、オレンジ。其等の樹々の円天井の下を暫く行くと、また水が無くなる。地下の熔岩《ようがん》の洞穴の廊下に潜り込むのだ。私は其の廊下の上を歩く。何時迄行っても、樹々に埋れた井戸の底から仲々抜出られぬ。余程行ってから、漸く繁みが浅くなり、空が葉の間から透けて見えるようになった。
ふと、牛の鳴声を聞きつける。確かに私の所有する牛には違いないが、先方では所有主を見知るまいから、頗《すこぶ》る危険だ。立停り、様子をうかがって、巧《うま》くやり過ごす。暫く進むと、※[#「壘」の「土」に代えて「糸」、第3水準1−90−24]々《るいるい》たる熔岩の崖に出くわす。浅い美しい滝がかかっている。下の水溜《みずたまり》の中を、指ぐらいの小魚の影がすいすいと走る。ざりがに[#「ざりがに」に傍点]もいるらしい。朽ち倒れ、半ば水に浸った巨木の洞。渓流の底の一枚岩が不思議にルビイの様に紅
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