の前で、スティヴンスンの身体は埋められた。
海抜千三百|呎《フィート》、シトロンやたこ[#「たこ」に傍点]の木に取囲まれた山頂の空地である。
故人が、生前、家族や召使達の為に作った祈祷《きとう》の一つが、その儘《まま》、唱えられた。噎《む》せる程強いシトロンの香の立ちこめる熱い空気の中で、会衆は静かに頭を垂れた。墓前を埋めつくした真白な百合の花弁の上に、天鵞絨《ビロード》の艶を帯びた大黒揚羽蝶が、翅《はね》を休めて、息づいておった。…………
老酋長《ろうしゅうちょう》の一人が、赤銅色の皺《しわ》だらけの顔に涙の筋を見せながら、――生の歓びに酔いしれる南国人の・それ故にこそ、死に対して抱く絶望的な哀傷を以て――低く眩いた。
「トファ(眠れ)! ツシタラ。」
底本:「昭和文学全集 第7巻」小学館
1989(平成1)年5月1日初版第1刷発行
底本の親本:「中島敦全集 第1巻」筑摩書房
1976(昭和51)年3月初版発行
※「李陵 山月記 檸檬 愛撫 外十六篇」文春文庫を参照して、「卓子《テーブル》」「輪索《わな》」「稜鏡《プリズム》」「榕樹《ガジマル》」のルビを補っ
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