x accord
  Dans la divine symphonie?
   神のあやつる交響楽の中で
   俺は調子の外れた弦ではないのか?

 夜八時、すっかり元気になった。ウィア・オヴ・ハーミストンの今迄|書溜《かきた》めた分を読みかえす。悪くない。悪くないどころか!
 今朝はどうかしていたんだ。俺が下らない文学者だと? 思想がうすっぺらだの、哲学が無いのと、言い度い奴は勝手に言うがいい。要するに、文学は技術だ。概念で以て俺を軽蔑《けいべつ》する奴も、実際に俺の作品を読んで見れば、文句なしに魅せられるに決ってるんだ。俺は俺の作品の愛読者だ。書いている時は、すっかり、厭《いや》な気持になり、こんなものの何処に価値があるか、と思える時でも、翌日読返して見れば、俺は必ず俺の作品の魅力にとらわれて了う。仕立屋が衣服を裁つ技術に自信を有《も》つように、俺は、ものを描く技術に自信を有っていいのだ。お前の書くものに、そんなに詰まらないものが出来る筈はないのだ。安心しろ! R・L・S・!

十一月××日
 真の芸術は(仮令《たとえ》、ルソーのそれの如きものではなくとも、何等かの形で)自己告白で
前へ 次へ
全177ページ中160ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング