が冴えなかった。机に向って昨夜の続きを四五枚も書いた頃、私の筆は止った。行悩んで頬杖をついていた時、ひょいと、一人の惨めな男の生涯の幻影が頭の中を通り過ぎた。その男は、ひどい肺病やみで、気ばかり強く、鼻持ならない自惚《うぬぼれ》やで、気障《きざ》な見栄坊で、才能もないくせに一ぱしの芸術家を気取り、弱い身体を酷使しては、スタイルばかりで内容の無い駄作を書きまくり、実生活に於ては、其の子供っぽい気取のため事毎に人々の嘲笑を買い、家庭の中では年上の妻のために絶えず圧迫を受け、結局は、南海の果で、泣き度い程北方の故郷を思いながら、惨《みじ》めに死んで行く。
 ちらりと一瞬、閃光《せんこう》のように斯《こ》うした男の一生の姿が浮かんだ。私ははっ[#「はっ」に傍点]とみぞおち[#「みぞおち」に傍点]を強く衝《つ》かれた思いがし、椅子の上にくずおれた。冷汗が出ていた。
 暫くして私は回復した。之は何か身体の工合のせいだ。こんな莫迦《ばか》な考が浮ぶなんて。
 しかし、自分の一生の評価の上に、ふと、さしたかげ[#「かげ」に傍点]は中々拭い去れそうもない。
  Ne suis−je pas un fau
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