ぶつからなかった種々の経験――其等を考えることが、慾の多い私をいらいらさせたものだ。所が、近頃は最早、そうした行為への純粋な慾求が次第になくなって来た。今日の昼間のような曇りのない歓びも、もう二度と訪れることがないのではないかと思う。夜、寝室に退いてから、疲労のための、しつこい咳が喘息《ぜんそく》の発作のように激しく起り、又、関節の痛みがずきずき[#「ずきずき」に傍点]と襲って来るにつけても、いやでも、そう思わない訳に行かない。
私は長く生き過ぎたのではないか? 以前にも一度死を思うたことがある。ファニイの後を追うてカリフォルニア迄渡って来、極度の貧困と極度の衰弱との中に、友人や肉親との交通も一切断たれたまま・桑港《サンフランシスコ》の貧民窟の下宿に呻吟《しんぎん》していた時のことだ。その時私は屡々《しばしば》死を思うた。しかし、私は其の時迄に、まだ、我が生の記念碑ともいうべき作品を書いていなかった。それを書かない中は、何としても死なれない。それは、自分を励まし自分を支えて来て呉れた貴い友人達(私は肉親よりも先ず友人達のことを考えた。)への忘恩でもある。それ故、私は、食事にも事欠くよ
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