、所詮は、技巧上の問題としか思えぬ。読者を引入れる・引入れ方の相違だ。読者を納得させるのがリアリズム。読者を魅するものがロマンティシズム。

七月×日
 先月来の悪性の感冒も漸《ようや》く癒《い》え、この二三日、続けて、碇泊中《ていはくちゅう》のキューラソー号へ遊びに行っている。今朝は早く街へ下り、ロイドと共に政務長官エミイル・シュミット氏の所で朝食をよばれた。それから揃ってキューラソー号に行き、昼食も艦上で済ます。夜はフンク博士の所でビーア・アーベント。ロイドは早く帰り、私一人ホテル泊りの積りで、遅く迄話し込んだ。さて、その帰途、頗《すこぶ》る妙な経験をした。面白い[#「面白い」は底本では「画白い」]から、書留めて置こう。
 ビールの後で飲んだバーガンディが大分利いたと見え、フンク氏の家を辞した時は、かなり酩酊《めいてい》していた。ホテルヘ行くつもりで四五十歩あるいた頃迄は、「酔っているぞ。気を付けなければ」と自分で警戒する気持も多少はあったのだが、それが何時の間にか緩んで、やがて、あとは何が何やら、まるで解らなくなって了った。気がつくと、私は黴《かび》のにおい[#「におい」に傍点]
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