》の薬をすすめられてもしかたがない、と、そのようなことも思うた。
その四つ辻《つじ》から程遠からぬ路傍《ろぼう》で、悟浄は醜い乞食《こじき》を見た。恐ろしい佝僂《せむし》で、高く盛上がった背骨に吊《つ》られて五臓《ごぞう》はすべて上に昇ってしまい、頭の頂は肩よりずっと低く落込んで、頤《おとがい》は臍《へそ》を隠すばかり。おまけに肩から背中にかけて一面に赤く爛《ただ》れた腫物《はれもの》が崩れている有様に、悟浄は思わず足を停《と》めて溜息《ためいき》を洩《も》らした。すると、蹲《うずくま》っているその乞食《こじき》は、頸《くび》が自由にならぬままに、赤く濁った眼玉《めだま》をじろり[#「じろり」に傍点]と上向け、一本しかない長い前歯を見せてニヤリとした。それから、上に吊上《つりあ》がった腕をブラブラさせ、悟浄の足もとまでよろめいて来ると、渠《かれ》を見上げて言った。
「僭越《せんえつ》じゃな、わし[#「わし」に傍点]を憐《あわ》れみなさるとは。若いかたよ。わし[#「わし」に傍点]を可哀想《かわいそう》なやつと思うのかな。どうやら、お前さんのほうがよほど可哀想に思えてならぬが。このよう
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