を苦々しく思っているに違いないのだ。
話にも飽き、昼間の疲れも出てくると、めいめい寒さを防ぐために互いに身体をくっつけあいながら藁の上に横になった。私も横になったまま、毛のシャツを三枚と、その上にジャケツと上衣と外套とを重ねた上からもなおひしひし[#「ひしひし」に傍点]と迫ってくる寒さに暫く顫えていたが、それでも何時の間にかうとうとと睡って了ったものと見える。ひょいと何か高い声を聞いたように思って、眼を覚ましたのは、それから二三時間もたった後だろうか。その途端に私は何かしら悪いことが起ったような感じがして、じっと聞耳を立てると、テントの外から、又、妙に疳高《かんだか》い声が響いて来た。その声がどうやら趙大煥らしいのだ。私ははっ[#「はっ」に傍点]と思って、宵に自分の隣に寐《ね》ていた彼の姿をもとめた。趙はそこにいなかった。恐らくは歩哨の時間が来たので外へ出ているのだろう。が、あの、妙におびやかされた声は? と、その時、今度はハッキリと顫えを帯びた彼の声が布一枚隔てた外から聞えてきた。
――そんなに悪いとは思わんです。
――なに? 悪いと思わん?――と今度は別の太い声がのしかかるよ
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