との冷笑的な表情にかえるのではあったが。
上級生との間に今云ったような経緯《いきさつ》が前からあったので、それで彼も、その時、素直にあやまれなかったのであろう。其の夕方、天幕が張られてからも、彼はなお不安な落著《おちつ》かない面持をしていた。
幾十かの天幕が河原に張られ、内部に藁《わら》などを敷いて用意が出来ると、それぞれ、中で火をおこしはじめた。初めの中は薪《まき》がいぶって、とても中にはいたたまれなかった。やがて、その煙もしずまると、朝から背嚢《はいのう》の中でコチコチに固まった握飯の食事が始まる。それが終ると、一度外へ出て人員点呼。それがすんでから各自の天幕に帰って、砂の上に敷いた藁の上で休むことになる。テントの外に立つ歩哨《ほしょう》は一時間交代で、私の番は暁方《あけがた》の四時から五時までだったから、それまでゆっくり睡眠がとれるわけだった。その同じ天幕の中には私達三年生が五人と(その中には趙も交っていた。)それに監督の意味で二人の四年生が加わっていた。誰も初めの中は仲々寝そうにもなかった。真中に砂を掘って拵《こしら》えた急製の炉《ろ》を囲み、火影に赤々と顔を火照《ほて》ら
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