で、これは上級生達から睨まれるのも当然であったろう。趙自身の話によると、何でも二度ばかり「生意気だ。改めないと殴るぞ。」と云って、おどかされたそうだ。殊《こと》に此《こ》の演習の二三日前などは学校裏の崇政殿という、昔の李王朝の宮殿址の前に引張られて、あわや殴られようとしたのを、折よく其処を生徒監が通りかかったために危く免れたのだという。趙は私にその話をしながら口のまわりには例の嘲笑の表情を浮かべていたが、その時、又、急にまじめになってこんな事を云った。自分は決して彼等を恐れてはいないし、又、殴られることをこわいとも思っていないのだが、それにも拘らず、彼等の前に出ると顫《ふる》える。何を馬鹿なとは思っても、自然に身体が小刻みに顫え出してくるのだが、一体これはどうした事だろう、と其《そ》の時彼は真面目な顔をして私に訊ねるのだった。彼は何時も人を小馬鹿にしたような笑いを浮かべ、人から見すかされまいと常に身構えしているくせに、時として、ひょいとこんな正直な所を白状して見せるのだ。もっとも、そういう正直な所をさらけ出して見せたあとでは、必ず、直ぐに今の行為を後悔したような面持《おももち》で、又も
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