に傍点]と眺めている中に、私は何時《いつ》の間にか覗《のぞ》き眼鏡で南洋の海底でも覗いているような気になってしまっていた。が、併《しか》し又、其《そ》の時、私には趙の感激の仕方が、あまり仰々しすぎると考えられた。彼の「異国的な美」に対する愛好は前からよく知ってはいたけれども、此《こ》の場合の彼の感動には多くの誇張が含まれていることを私は見出し、そして、その誇張を挫《くじ》いてやろうと考えた。で、一通り見終ってから三越を出、二人して本町通を下って行った時、私は彼にわざとこう云ってやった。
――そりゃ綺麗でないことはないけれど、だけど、日本の金魚だってあの位は美しいんだぜ。――
反応は直ぐに現れた。口を噤《つぐ》んだまま正面から私を見返した彼の顔付は――その面皰《にきび》のあと[#「あと」に傍点]だらけな、例によって眼のほそい、鼻翼《びよく》の張った、脣の厚い彼の顔は、私の、繊細な美を解しないことに対する憫笑《びんしょう》や、又、それよりも、今の私の意地の悪いシニカルな態度に対する抗議や、そんなものの交りあった複雑な表情で忽《たちま》ち充たされて了ったのである。その後一週間程、彼は私に
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