狐憑
中島敦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)憑《つ》きものがした

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)所謂|憑《つ》きもの

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しきたり[#「しきたり」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)より/\相談をした
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 ネウリ部落のシャクに憑《つ》きものがしたといふ評判である。色々なものが此の男にのり移るのださうだ。鷹だの狼だの獺だのの靈が哀れなシャクにのり移つて、不思議な言葉を吐かせるといふことである。
 後に希臘人がスキュティア人と呼んだ未開の人種の中でも、この種族は特に一風變つてゐる。彼等は湖上に家を建てて住む。野獸の襲撃を避ける爲である。數千本の丸太を湖の淺い部分に打込んで、其の上に板を渡し、其處に彼等の家々は立つてゐる。床《ゆか》の所々に作られた落し戸を開《あ》け、籠を吊して彼等は湖の魚を捕る。獨木舟を操り、水狸や獺を捕へる。麻布の製法を知つてゐて、獸皮と共に之を身にまとふ。馬肉、羊肉、
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