tに似た麺麭の葉を漏斗《じょうご》代りに其処《そこ》へ突込み、上からコプラの白い汁を絞って流し込んでいた。こうして石焼にすると、全体に甘味が浸みこんでいて大変旨いのだそうである。

 支庁の人の案内でマーシャルきっての大酋長カブアを訪ねた。カブア家はヤルートとアイリンラプラプとの両地方に跨《また》がる古い豪家で、マーシャル古譚詩の中にはしばしば出て来る名前だそうである。
 瀟洒《しょうしゃ》たるバンガロー風の家だ。入口に、八島嘉坊と漢字で書いた表札が掛かっていて、ヤシマカブアと振り仮名が附けてある。この地方の風と見えて、廚房《ちゅうぼう》だけは別棟になっているが、それが四面皆|竪格子《たてごうし》で囲んだ妙な作りである。
 初め主人が不在とて、若い女が二人出て来て接待した。一見日本人との混血と分る顔立だが、二人とも内地人の標準から見ても確かに美人である。二人が姉妹だということもすぐに判った。姉の方がカブアの細君なのだという。
 程なく主人のカブアが呼ばれて帰って来た。色は黒いがちょっとインテリ風の・三十前後の青年で、何処か絶えずおどおどしているような所が見える。日本語は此方の言葉が辛う
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