ェ歳《やっつ》になる。痩《や》せた・目の大きい・腹ばかり出た・糜爛性腫瘍《フランペシヤ》だらけの児である。何か御馳走が出来たか、と聞けば、兄が先刻カムドゥックル魚を突いて来たから、日本流の刺身に作ったという。
 少年について一歩日向の砂の上に踏出した時、タマナ樹の梢から真白な一羽のソホーソホ鳥(島民がこう呼ぶのは鳴き声からであるが、内地人はその形から飛行機鳥と名付けている)が、バタバタと舞上って、たちまち、高く眩しい碧空に消えて行った。
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   マリヤン


 マリヤンというのは、私の良く知っている一人の島民女の名前である。
 マリヤンとはマリヤのことだ。聖母マリヤのマリヤである。パラオ地方の島民は、凡《すべ》て発音が鼻にかかるので、マリヤンと聞えるのだ。
 マリヤンの年が幾つだか、私は知らない。別に遠慮した訳ではなかったが、つい、聞いたことがないのである。とにかく三十に間があることだけは確かだ。
 マリヤンの容貌が、島民の眼から見て美しいかどうか、これも私は知らない。醜いことだけはあるまいと思う。少しも日本がかった所が無く、また西洋がかった所も無い(南洋でちょっと顔立
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