フ用件と、もう一つ僻遠《へきえん》諸離島の人頭税取立てとを兼ねて、一人の島民巡警を引連れ、内地人の乗ることなどほとんど無い・そして年に僅か三回位しか通わないこの離島航路の小船に乗ったのであった。
「ナポレオン先生、大人しくこの船に乗せられて、T島に移りますかな?」と私が言うと、「なあに、いくら悪《わる》だといったって、たかが島民の子供じゃないですか。問題じゃない」と警官がむき[#「むき」に傍点]になって答えた。その声に、今までの会話の調子と違って、意外にも若干の憤激の調子が感じられ、ああ、私の今の言葉は島民の前には絶対権威をもつ警官への多少の侮辱に当るのかも知れぬと気が付いた。
 S島がナポレオンの存在に困るからとて、T島にやったのでは、同じような無気力者の寄合に違いないT島でもやはりこの少年に手古摺《てこず》るに違いない。もっと他に何か方法は無いものか。たとえばコロールの街で厳重な監視の下に労役に従わせるとか、そういう風な。それに、一体、この流刑という古風な刑罰を少年に課しているのは、どういう法律なのだろう? 日本人の籍をもたぬ彼ら島民、殊にその未成年者には、どんな法律が設けられてい
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