うな態度で何かモゴ/\と口の中で言つてゐる。少年に通譯させると、「二圓だけれど、何なら一圓五十錢でもいい」と言つてゐるのださうだ。私が呆氣《あつけ》に取られてゐる中に、M氏はさつさ[#「さつさ」に傍点]と一圓五十錢で其のバスケットを買上げて了ふ。
宿へ歸つてから、私はM氏の帽子を手に取つて、しげ/\と眺めた。相當に古い・既に形の崩れた・所々に汚點《しみ》の付いた・おまけに厭な匂のする・何の變哲も無いヘルメット帽である。しかし、私にはそれがアラディンのランプの如くに靈妙不可思議なものと思はれた。
※[#ローマ数字3、1−13−23]
[#地から5字上げ]ポナペ
島が大きいせゐか、大分涼しい。雨が頻りに來る。
綿《カボック》の木と椰子との密林を行けば、地上に淡紅色の晝顏が點々として可憐だ。
J村の道を歩いてゐると、突然コンニチハといふ幼い聲がする。見ると、道の右側の家の裏から、二人の大變小さい土民の兒が――一人は男、一人は女だが、切つて揃へたやうな背の丈だ。――挨拶をしてゐるのだ。二人ともせい/″\四歳《よつつ》になつたばかりかと思はれる。大きな椰子の根上りし
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