た、その鬚だらけの根元に立つてゐるので、餘計に小さく見えるのであらう。思はず此方も笑つて了つて、コンニチハ、イイコダネといふと、子供達はもう一度コンニチハとゆつくり言つて大變叮嚀に頭を下げた。頭は下げるが、眼だけは大きく開けて、上目使ひに此方を見てゐる。空色の愛くるしい大きな眼だ。白人の――恐らくは昔の捕鯨者等の――血の交つてゐることは明らかである。
 總じてポナペには顏立の整つた島民が多いやうだ。他のカロリン人と違つて、檳榔子を噛む習慣が無く、シャカオと稱する一種の酒の如きものを嗜《たしな》む。之はポリネシヤのカ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]と同種のものらしいから、或ひは、此處の島民にはポリネシヤ人の血でも多少はひつてゐるのかも知れぬ。
 椰子の根元に立つた二人の幼兒は、島民らしくない小綺麗な服を着てゐる。彼等と話を始めようとしたのだが、生憎、コンニチハの外、何にも日本語を知らないのである。島民語だつて、まだ怪しいものだ。二人ともニコ/\しながら何度もコンニチハと言つて頭を下げるだけだ。
 其の中に、家の中から若い女が出て來て挨拶した。子供等に似てゐる所から見れば、母親だらう
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